ブザーの音で目覚めると、沢田と岩井はいそいそと着替えを済ませ、階段を下りていった。朝五時からの朝マヅメを狙うためだ。
コーヒーの芳ばしい匂いが二階の二人の部屋にまで届いていた。ミルクをコーヒーにたっぷり入れ、焼き立てのクロワッサンを口に入れる。毎朝、何も変わることのないメニューなのにいつも新鮮な味わいを覚える。
テーブルには、もうマダムと美緒が着いて二人が降りてくるのを待っている。白いシャツに白いスカートに白いエプロンに白いストッキングに白い靴。二人ともまったく同じ服装をしている。白いソーサーカップに白いピッチャーに白い皿に白いテーブルクロスに白い花瓶に白いバラ。いつもと何も変わらないテーブルセッティング。そして、デザートにはアイソタケ。沢田と岩井は二、三個それを摘むと立ち上がってテーブルを回ってマダムと美緒にそれぞれキスすると玄関に向かった。マダムと美緒は二人を追って玄関までやってきて、声を揃えて
「お気をつけて」と言った。
二人は玄関を出ると直ぐ右に曲がって漁協の方へ歩いていった。
「今日はどうかな、沢田。もう、メーター級が上がってもいい頃なんだがな」
「ああ、俺が釣ってやるよ。メーター級でも二メーター級でも」
「おい、今日は反対側のバンクがお前だったかな」
「えーと、そうかな。俺は右側の方が得意なんだがな。ま、下に行けば分かるさ」
「そうだな。まあ、同じ数だけポイントはある訳だしな」
漁協の前にはピッタリ二十分で着いた。そして、左手の石段を川岸まで下る。いつもと何も変わることのない日課だ。石段を下り、フェンスを見る。今日は左にI、右にSのプレートが掛かっていた。扉は開いている。
「どうやら、今日はお前が反対側のバンクらしいな岩井」
「ラッキー。俺、どうも相性がいいんだよなあっちの方が」
「俺も右の方がツイてるからな」
「最初のインスピレーションって奴だな、こりゃ。お前がマダムを選んだような」
「そういうことかな」
「いくぞ、沢田」
「おい、今日は賭けないのか」
「おお、そうだ、よし、アイソタケ一皿」
沢田と岩井は扉の前で右手を握り合うと右と左に分かれて川に入っていった。川からはいつものように湯気が立ち昇り、朝靄のように見えた。二人が湯気の中に消えてしまうと、扉が自動的に閉まった。扉が閉まるとブーンという音がフェンスから聞こえ始めた。吹く風が近くの灌木の枝をざわめかせ、葉っぱのついた小枝をフェンスに落とした。小枝はフェンスに当たる前に、バッという音をたてて弾き飛んだ。
二時間後、大声でわめき立てる沢田と岩井の声が川岸から聞こえてきた。フェンスの扉が自動的に開いた。石段から白い洋服を着た男たちが下りてきた。男たちは全部で五人いた。五人の男たちは扉の前に横に並んで、沢田と岩井を待った。沢田と岩井の姿が見えてくる。
「いやぁ、残念だったなぁ。あれを上げてりゃなぁ」
「へへぇ、だから言っただろ、ツイてるんだって」
「九十九センチだもんなぁ、参った」
「ファイトもなかなかだったぜ」
「だろうなぁ、よく上がったな、7番で」
「限界だな、もう。10番のダブルハンドくらいはほしいな」
「そうだよな、ティペットも0Xだな」
「フックも、もっとでかいのがいるぜ」
沢田と岩井が扉の前に現れると、五人から拍手が起こった。五人全員がニコニコと愛想よく二人を迎えた。
「いやぁ、残念でしたね、岩井さん。あれを釣ってれば、今日は岩井さんの勝ちだったかもしれませんな」
「見ててくれました、組合長。きっとあれ、メーター級でしたよ」
「そうでしょう、そうでしょう」
「釣り味の方、どうですか」
組合長の隣の男が口を利く。
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