俺と妻が出会ったのは、ちょうど今から十年前のことだ。俺が勤めていた広告プロダクションの経理をやっていたおばさんが結婚することになって、俺も社員の一員として結婚披露パーティに列席していた。そのとき俺の向かいに座っていたのが妻で、そのおばさんのパーティ用衣装のスタイリングをするために来ていたのだ。
俺は、そのときまだ広告業界では駆け出しだったが、妻はすでに業界では名の通ったスタイリストとして活躍していた。なぜ妻が俺に興味を持ったのかという理由がふるっていて、そのパーティのデザートに出て来たスイカの食い方が気に入ったのだと言う。
パーティがはねたあと、俺たち会社の仲間と新郎新婦の二人はバーへと繰り出したのだが、彼女も一緒について来た。バーで妻は俺に声をかけて来て、俺は誘われるままディスコに一緒に行った。
そのディスコは当時はとてもナウいディスコで、時代の先端を走っていると自負しているような連中の溜まり場になっていた。俺はそのときまでそのディスコに行ったことはなかったし、知りもしなかった。
外も暑かったが店内はクーラーが回っているにもかかわらず熱帯のような暑さで、そう広くはない店内は派手な格好をしたギンギンの客たちで一杯だった。煙草の煙が立ち込め、照明に浮かび上がる顔は皆完璧に出来上がっているようにしか見えなかった。そのくせ、曲が変わるたびに元気にステージに飛び出して行くのだった。
その頃流行っていた曲は「サタデーナイトフィーバー」で、ジョン・トラボルタが同名の映画の中で踊っていた曲だ。色々な曲を聴き、色々な曲で踊ったはずなのだが、なぜかこの曲の記憶だけが鮮烈に残っている。夜中の三時を回った頃、この店のスペシャルショーが始まる。店の若い男の子がジュリーのメドレーを口パクで踊るのがこの店のお開きの合図だった。「ダーリング」でいつも終わっていたような気がする。
確かその後、前の客の肩に両手を乗せ全員で列になって店内を練り歩き、拍手でその日を締めくくったような気がする。妻はその店のスターで、全員の顔を知っていたし、全員がまず、妻に挨拶をしに寄って来たものだった。踊り、汗を流し、備えつけの自動販売機で缶ビールを買って飲んだ。二階にあるトイレに行くと枯れ草を燃やしたような匂いが立ち込めていて、俺はどこかが焦げているのかと思って回りを見渡したものだ。
踊り疲れて壁際の椅子に座ると、妻が火のついた煙草を差し出した。いがらっぽい匂いのする煙草で、俺は細巻きの葉巻かと思った。そして、その匂いとトイレで嗅いだ匂いが同じものであることに気がついた。
妻は、吸い込んでしばらく息を止めて肺に煙をためておくように俺に言った。俺は変わった吸い方だなと思ったが言う通りにした。
俺はその晩、飲みすぎていたのだと思う。煙草を吸うと気分が悪くなって、新鮮な空気を吸うために階段を上がって外に出た。俺の後を追って妻がやって来て、街路樹の下で寝ている俺を見つけてタクシーに乗せてくれたらしい。タクシーに乗った俺は、元気になって、タクシーの運転手任せでどこかのホテルに行こうとした。運転手は俺たちの仲をどう勘違いしたのか、朝飯のちゃんと用意してある簡易旅館に案内した。俺はどこでも横になれればよかったので、入口で立ち止まりもせずに案内された二階の部屋へと上がって行った。料金は前金になっていたはずだが、俺は払わなかったから妻が払ったのだと思う。
俺は完璧に酔っていて、おまけに妻がくれた煙草のせいで喉が痛くて少しフワフワした気分だったのだが、一発やった。一発やって気がつくと朝になっていて、朝食が運ばれて来た。俺は全く寝ていなくて、真っ赤に充血した目で会社に行った。妻はそのとき男と別れたばかりで、俺も前の女房と別れたばかりだった。
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