ワイルド・ワイフ
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ロサンジェルス空港に到着し、ホテルにチェックインする前にトラブルが発生した。荷物の中で一番大事な物が紛失してしまったのだ。俺はその頃、釣り具メーカーの仕事をしたのをきっかけに、フライフィッシングを始めたところだった。そして、その旅行は俺の初めての海外フィッシングツアーだったのだ。と言っても、旅費は妻のおごりで、何でも安いツアーが見つかったからだとか言っていた。とにかく、俺は妻に言われるがまま一緒にアメリカまで行くことにしたのだ。

一日ホテルで待つうちに荷物が出て来た。ホテルはセンチュリーウィルシャーだったと思う。そのツアーは、最初の一泊だけは豪華なホテルがセットされたディズニーランドツアーで、俺たちはそのツアーの足買いだけして、ヨセミテパークに行くことにしていた。妻は、きっと俺と一緒にディズニーランドに行くつもりだったのだろうが、俺はそのときフライフィッシングにしか興味がなかったのだ。妻はしぶしぶ承諾したに違いないのだが、決して嫌な顔は見せなかった。嫌な顔を見せないどころか、自分も自然が大好きで、フライフィッシングに行きたいと言ったのだ。俺は、それは本当のことだと思っていた。

ロサンジェルスからフレズノに飛び、フレズノからバスでヨセミテパークに着いた。ヨセミテパークには写真で見たとおりのハーフドームがそびえていて、川もあり、魚もいたのだが釣れなかった。夕食に出て来た虹鱒のムニエルを食べながら、俺はどうしてこんなところまで来たのだろうと、妻の顔を見ながら思ったものだ。俺はヨセミテにいる間中体調が悪くて、ほとんど何も出来ない状態だったのだが、やることだけはやっていた。

数日後ロサンジェルスに戻ったが、今度はラマダインという最低のモーテルだった。俺はそのモーテルで寝込んでしまった。あの時だけは本当に参った。あのとき、ロサンジェルスに住んでいる妻の女友達がつき合っていた男がたまたま医者でなかったとしたら、とんでもないことになっていたと思う。疲労からの風邪だったのだが、その医者のお陰で注射一本で元気になった。まだ俺も二十代で若かったせいもあったのだろう。俺が元気になると、妻と妻の女友達と俺の三人はラマダインで大パーティを開いた。葉っぱと白い粉の大盤振る舞いだったのだが、俺は白い粉の方は余り好きになれなかった。女たちはそっちの方が好きなようで、鼻から吸ってはケタケタと笑いあっていた。俺はもっぱら葉っぱの方で、思い切り吸って肺に溜める練習をしていたお陰で、結構面白いトリップが楽しめた。

アメリカから戻って、俺と妻とは一緒に暮らすことになった。妻が俺の会社の近くにアパートを見つけて来て、勝手に契約を済ませて来たからだ。俺たちは同時に契約したアパートを同時に解約してそのアパートに一緒に引っ越した。そして、すぐに妻は妊娠した。前の女房との間には子供はなかった。俺は子供にはまったく興味がなくて、欲しいと思ったことは一度もない。女房は学生の頃から何回か堕ろしていて、もう子供が生めなかったのかもしれないが、結婚している間に妊娠したことはなかった。妻は妊娠したとき、「私一人で育てるから心配しないで」と言った。俺はそれを信じて「じゃ、勝手に生めよ」と言った。前の女房も子供が欲しいと言っていた。俺はそれは拒否していたのに、妻の言葉を鵜呑みにしてしまったのだ。妻の腹が日に日に大きくなって行くのを、俺はうとましく見ていた。

「近くに来てるんだけど会えないかしら」

会社にかかって来た電話の声は前の女房だった。俺は会った。そしてその夜、一発やった。それから何度か彼女のアパートまで行って泊まることもあった。男は俺一人ではなかったと思う。俺はそのとき、不思議なことに他の男に彼女を取られまいとしていた。

妻が子供を生む一ヵ月前、俺は妻を籍に入れた。子供を父なし子にしたくなかったからだ。育てるのは妻一人でも出来ることだが、生まれたときから片親というハンディは与えたくなかったのだ。

妻に子供が生まれた。俺の子供でもある。俺はその日、殊勝にも病院まで駆けつけた。その日は強い風にあおられて嵐のように雨が降り、凄まじい雷までも鳴っていた。俺はそのときにはもう会社を辞めていて、いっぱしのプロデューサーとしてテレビの番組を作っていた。妻はスタイリストを子供が生まれる直前までやっていたが、三年間の休業宣言を行って主婦業に専念すると言いだした。一人で育てるのは確かだが、経済的負担は放棄するということらしかった。俺の仕事は順調だったし、女を食わせて来たことはそれまでなかったので、俺はそれを結構新鮮な経験として楽しむことが出来た。妻はすぐに主婦よりも妻よりも母を優先させるようになった。俺は俺で仕事にかまけることでその日その日をやり過ごしていた。前の女房とはしばらく会わないままだったが、俺はそれを気にもとめていなかった。

ある日、俺はふと思い立って前の女房に電話した。俺の仕事仲間が、前の女房の勤め先の電話番号を知らせて来たからだ。彼女は広告代理店で働いていた。なぜ電話したのかその理由はよく分からないが、俺はそのとき、誰かと話をしたかったのだと思う。それも、俺のことを良く理解してくれている誰かと。俺はその夜、前の女房と飲みに行った。彼女の行きつけのバーに行って、散々飲み、酔ったあげくに俺は店中に聞こえるような大きな声で

「俺はこの女と結婚します!」

と宣言したのだ。なぜそんなことを言ったのか分からないのだが、そのときは本当にそう思っていたのだ。そして、その夜近くのシティホテルで一発やった。前の女房は俺にその夜一緒に泊まってくれと言うので、もう一発やって、俺は寝込んでしまった。