醒めない夢
----- 第五章 (4)-----

二人はマダムに急かされるまま、外に出た。いつの間にか強い雨が降っていた。右手のダムの方を見ると真っ白な大型のトラックやクレーン車が停まっていた。川面は強力なサーチライトで照らされ、ダムの近くの深みを浮かび上がらせていた。岩井は、車に乗り込むとエンジンをかけた。左側の助手席には沢田が座った。パワーウィンドーを開けると、泣き顔になったマダムの顔があった。三人の娘の原型があった。ショートカットの髪に広い額。高すぎる鼻と大きな目と少し厚い唇。そして、顔に似合わない少しごつごつした手が沢田の手の上にある。白い顔をますます白くさせ、目は涙で充血している。

「一緒にいたかったのに」

「今日の昼間のこと、あれは夢だったんでしょうか」

「・・・・いいえ、夢ではありません・・・絶対に後ろを見ないでください。ゲイトが閉まってしまいます。早く」

強い雨の中を、岩井の運転するランドロードーはワイパーをハイにして走った。ゲイトまでは右に曲がり、今度は左に曲がって直線になった辺りだ。岩井は飛ばしている。雨足が速くなったようだ。右のカーブに突っ込む。テイルが少し流れぎみだ。岩井がブレーキを踏む。車が流れる。岩井が逆ハンドルを当てて修正する。岩井はもう一度ブレーキを踏んで車を停めると、後ろを見るように沢田に言った。沢田が振り向くと、ダムの辺りがちょうど見渡せた。強烈なサーチライトの中に川の中から数本のパイプが突き出ていた。クレーン車はそのパイプを吊り上げている。

岩井は、沢田がそれを見たことを確認すると、車を出した。そして、以前にも増して、スピードを上げた。左カーブに差しかかった。岩井のハンドリングでテイルが右に流れた。岩井は逆ハンドルを当てる。今度は左に流れた。また逆に切る。車は安定しないままガードレールに向かう。前方にゲイトが見えた。閉まっている。岩井がブレーキを踏む。車は右にテイルを振りながら左フェンダーをガードレールで擦った。その弾みで左に回転すると、ゲイトに向かって滑り、リアからゲイトに衝突して停まった。前方に、車のヘッドライトが数条確認できた。

そのとき、岩井は、頭の中で響く、ちゃんと帰ってきてねという女の声を聞いた。そのとき、沢田の頭には、妻がトマトケチャップで壁に残していった、FUCK YOU!という文字が浮かんだ。