醒めない夢
----- 序章 (3) -----

岩井は受話器のボタンをオフにすると、女の体から離れてシャワールームに向かった。シャワールームに向かう通路で、自分の下半身から立ち昇ってくる女の甘酸っぱい体液の匂いを岩井は鼻に感じた。
シャワールームに入って温度を熱めに設定してお湯をかぶる頃には、その匂いの刺激は性器に作用して勃起していた。
シャンプーをしようと思ったところに、女が入ってきた。
深く眠っていたように見えたのだが、岩井がベッドから抜け出した布団の隙間が女に岩井の不在を知らせたようだった。

女はもうとっくに四十をすぎているはずなのだが、しっかりと張った胸と腰をしている。岩井は性器を見られたくなかったので、女に尻を向けて後ろ手でシャンプーを取ろうとした。
すると女はその手を取り自分の性器にあてがい、もう一方の手を岩井の脚の間から滑り込ませてきた。
岩井の指は女の手に導かれて女の性器の突出した部分から奥へと進む。 女の性器はまだ膨張したままで、岩井の指の侵入を快く受け入れている。 女の手は前立腺の辺りからまさぐる動きで男根に到達し握りしめる。 女が体を背中に寄せてくる。
その動きで岩井の指はより深くもぐり込み、女の手は、より強く握りしめる。
女がシャワーの湯煙の中で岩井の背中に密着する。
女の張りのある乳房が背中に押しつけられているのが分かる。
女は岩井の首筋に厚めの唇を押しつける。
岩井はもう一方の手で女の尻を抱く。女の陰毛が岩井の尻に触れる。 岩井は男根を握っている女の指を外して、女の突起物を中心にして体を回転させ正面に向き直る。女の性器から指を抜き取りしゃぶって体液の分泌を確認してから、女の臍の辺りに押しつけられている男根を女の脚の間に挟み込む。勃起しきった男根はさっきの行為による痛みを根元に残しながらも女の脚の間に息づいている。
岩井は女を強く抱き寄せ少し腰を屈めるようにして男根を女の体の中に収める。

ヌードを撮ってやろうか、というのが誘い文句だった。
そう、岩井が女に言ったときの女の体は精悍そのものだった。今は少し皮下脂肪がついてきて、歳相応の体になってきた。
不安は女を太らせるというが、岩井の存在は、女に安心感を与えているとは言いがたかった。女が、別れましょう、と言うまでのつき合いの仕方が岩井のやり方だった。

「どこへ行くの」

「釣りだ」

「誰といくの」

「うん、沢田っていう、俺の釣り友達だ」

「聞いたことないわ」

「ああ、久し振りなんだ、奴と一緒に行くのは」

「そう、気をつけてね。ちゃんと帰ってきてね」

「何を言ってるんだ。ちゃんと帰ってくるに決まってるじゃないか」

岩井は女の唇を自分の唇でふさぐ。もう、別れましょう、という言葉が女の口から出てくるのを防ぐために。
そう女が思っていることは岩井には分かっている。だが、いつも岩井はそれを避けてきた。庇護されることが叶わぬことを悟った女は、必ずいつもそう言って岩井の元を去って行った。新しい別の庇護してくれる男を探すために。

女のマンションを出た岩井はランドローバーでスタジオに向かった。 前日にやった撮影のアガリが現像所から届いている頃だった。 それをチェックして、ポジセレクトをやっておかなければならない。チープなカナダのモデルを使ったために少し気になったのだ。
不景気なのと円高のせいでヨーロッパやアメリカのモデルがめっきり減ってしまった。モデルのギャラはそっくりそのままアガリにつながる。しっかり動けるモデルなら一時間もあれば終わってしまう撮影も、昨日モデルクラブに登録しましたというような奴を使わざるをえないとなると一日かけてもいいアガリは期待できない。
スタジオの前に車を停め、ドアを開けると、アシスタントがすでにライトボックスの上にポジを並べて待っていた。

「どうだ」

「はぁ」

顔に再撮と書いてある。

「冗談じゃねぇぜ、予算、ねえんだろ」

岩井はライトボックスの前に座り込み、30ロール分のポジに目を通す。全部同じポーズ。

「これだけか」

「はぁ、届いたのはこれだけですが」

「あと1ロールあるだろ。ほら、最後にお前がシャッター切った分」

「えっ、あれですか。あれはダメでしょう」

「いいから、見せてみろ」

岩井は、アシスタントがおずおず差し出す1ロール分のポジをひったくりライトボックスの上に叩きつける。
買っておいたフィルムが一本余ったので、アシスタントにシャッターを押させた分だ。確か、モデルがリラックスしていたときにシャッターを押した奴が2、3カットあったはずだ。
素人モデルは素人が撮ったときに素直ないい表情を見せるときがある。 最後の2カットにそれはあった。
素人のくせに、フィルムの枚数だけは頭で勘定していたらしい。終わりが近づくにつれて表情が自然になっているのが分かる。岩井は、ダーマットでその2カットに印をつけると、マウントしてショーレックスに入れてクライアントに届けておくようアシスタントに指示すると、スタジオを出て行った。