三杯目にしてすでに酔ってしまったのだろうか、銀ちゃんは突然知り合い同士の冗談のような口調になってきた。
「そーかー?そうやな」
「それやったら、クリームチーズより、次のワインに合うチーズ、お出ししようかな思いまして」
「ふ〜ん、そんなら頼むわ」
85年のルロワをグラスに注ぎ、仁美ちゃんの用意したチーズを隣において、
「このくらいコクのあるワインやったら、同じくらいコクのあるチーズ、ロックフォールがピッタリや思います。チーズを口に入れてワインと一緒に噛んで下さい」
と、田中が言い終わらないうちに、銀ちゃんはチーズの乗った皿を自分の顔の前に持ち上げ、いきなり匂いをかぐと、
「わー、あかん、これチンカスみたいな匂いやないか。臭いのはあかんいうたやろ」
「まー、そう言わずに、いっぺん試してみてください。口に入れて赤ワインを入れると、クリームの香りが口中に広がって甘い感じがするはずです」
銀ちゃんは「臭い」「臭い」を連発しながらも田中の顔を上目遣いに見ながら、恐る恐るロックフォールチーズを口に入れ、顔をしかめながらルロワを流し込んだ。
銀ちゃんの顔が一瞬ゆがんですぐにゆるんだのを見届けてから、
「どうです?美味しいでしょ」
「ほー、なんじゃこりゃ、腐れ納豆みたいな味か思うたら、そうでもないやないか」
「そうでしょ、それが・・・」
「マリアージュって言うんだよー!」
仁美ちゃんがかぶせてくる。
「マリアージュ?」
「そー、食べ物とワインの相乗効果で美味しくなることなんだよー!」
「へー、さよか。チーズだけやったらあかんけど、ワインとやったらまずーないもんやな」
「そうだよー、とおっても美味しくなるんだ」
いつのまに覚えたのか、仁美ちゃんはすでに立派なアシスタントに成長していたようだった。
銀ちゃんは、それからオードブルを全品注文し、それに合わせたワインを注文した。全てをまず知り尽くしたいと思う銀ちゃんの性格の一端はすでにこのとき垣間見えていたということができよう。
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