日本酒は、列島に住む日本人が独自のオリジナリティの発現によって育てられ、洗練されてきたものですが、日本酒醸造の主役である酵母についても、興味ある開発が行われました。

日本酒もビールもその発酵状態が順調かどうかを判定するのに最も簡単で確実な方法は、発酵槽で発酵中の酒やビールの泡の状態を観察することです。発酵が盛んで強烈なときは、発酵槽の泡が高く盛り上がり、逆に弱いときは、泡の盛り上がり具合が低く、萎んだように見えます。この高く盛りあがった状態を、酒、ビールとも「高泡」と呼んでいます。
日本酒の発酵は開放型の(蓋のない)発酵槽を使って行われ、この発酵槽の泡の高さは1メートルにも達する。高泡の期間(通常、数日間)は盛り上がる泡がタンクから溢れ出ないよう、徹夜の泡消し作業が必要となり、また、高泡を見越して発酵液(醪)の収容量を少なくし、タンク上縁と液面までの間に余裕を設けたりする対応も必要となるが、これはタンクの利用効率を悪くするものであることはいうまでもない。さらに、発酵が終了し、タンクが空になり洗浄する段になると、このタンクの上縁の高泡部分に付着した泡が乾燥・固着し、洗い落とすのが極めて困難な作業になる。発酵中の高泡は、発酵状態を教えてはくれるが、このような様々な問題点を含むものであり、したがって発酵状態を知るのに別な手段があれば、発酵中の高泡は無用なものであるといえる。

そこで、この目的に沿って酵母の選抜や育種が行われ、その結果「泡なし酵母」と呼ばれる優良な酵母を得ることができた。「泡なし酵母」は、発酵中に高泡の形成がないものの発酵後の酒の品質は、従来の高泡酵母と変わりがなく、そのため、今では泡なし酵母で醸造される日本酒が増加している。