ワイヤード・ラブ
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>僕は君に会いたい!

という文字にボクは見入ってしまった。
なぜってボクはそんなことを今まで言われたことがなかったからだ。いや、まだ小さかった頃、ボクが普通に歩けていた頃、ちゃんと口を利けていた頃には言われたことがあったかも知れない。 でも、突然こうなってしまってから、ボクが家から出なくなってしまってからは誰からも言われたことはない。

母は、父が出て行ってしまってからは、愚痴しか言ったことがないし、時々行く病院の先生も、ニコニコしているのだけれど、君には会いたくないもんだという目をしていることはボクにはお見通しなんだ。
誰もボクには会いたがらない。だから、ボクも誰にも会いたくなんかないんだ。ボクのことを見ても、誰も幸せにならないし、ボクだって面白くもなんともない。
ボクは友だちなんかほしくない。

>ボクはともだちなんかいらない!

>誕生パーティは終わってない!

僕は何とか奴の気を引こうとしている。
どうだ、こいつには引っかかるだろう。そう思って僕はキーを叩いた。
遅い。遅い遅いレスポンス。
他の二人のチャットはもう、十行目までいっている。数字が並び始めた。
電話番号だ。僕は急いでメモに取る。
名前が打ち出された。男の名前だった。それも、やけに男らしい名前だ。
僕はなぜか、咄嗟にニューハーフみたいな男らしい名前だな、と思った。
住所は。住所だよ。遅いんだよ、お前は!

僕はイライラしてくる。
自分の住んでいる住所をすぐに書けない奴がいるのかよ!
僕はしばらく待った。急かさない方がいいだろうと思ったのだ。そして、待てよ、と思った。電話番号があれば、住所は分かる。電話局では教えないことになっているが、こんな緊急時には教えてくれるかも知れない。
僕は奴の応えを待っている間に電話局に問い合わせてみた。
駄目だった。回線がパニックになっている。
電話帳は、と思って、やっぱり行かなければと思った。

>住所、教えて!パーティしようよ!

住所は教えたくない。もし住所を教えたら<彼>がやって来るから。
ボクは<彼>には会いたくない。 会うのが怖い。ボクは<彼>が思っているような人間じゃない。
<彼>はボクの事をどんなふうに思っているのだろうか。
<彼>はどんな人間なのだろう。
<彼>はボクのことを何も知らない。
何も知らないくせに、なんで会いたいとか、住所とか知りたがったりするんだろう。

住所はいつまでも打ち出されなかった。電話番号でどの県かは分かった。名前も分かった。その地方の警察に電話してみた。
警察にも電話はつながらなかった。
消防署にも役所にも電話したがつながらなかった。
何てことだろう。この地方への回線はパニック状態になっている。いつまで待っても何も応えが返ってこないにしても、奴と僕の回線は生きている。僕と奴とはキーボードを前にしてつながっている。
この回線だけで奴とつながっているのだ。

>そっちに行くよ。

>こないで

>行くしかない。すぐに行く。

>あいたくない

>ニンジンジュース持っていくよ。

>いらない

>ヨーグルト持っていくよ。

>いらない

>すぐに行くから、待ってて。切るよ。

>きらずにはなして

>どうしたんだ。大丈夫?

>くるしい

>待ってて。すぐに行くから。

<彼>がやって来る。ボクは、会いたくない。
苦しい。息苦しい。体全体が熱い。腹部が苦しい。
空気が薄くなっているわけでもないのに、ボクは胸で息をしている。
気温が高くもないのにボクは全身に汗をかいている。
椅子の背もたれも湿っている。
臀部は湿ったままで気持ちが悪い。
痒みがある。
座板の部分と臀部の間の、一旦しみ込んだ水分が体温で蒸発し始めている。
腹部の痛みはいつものものだ。
嫌だ。<彼>には会いたくない。
母さん、助けて!
なぜなの、なぜなの、なぜこんなことになったの!