醒めない夢
----- 終章 (2)-----

「いいんじゃないですか。ナチュラルって感じで。なあ、沢田」

「そうですね、出来るだけ水面上でファイトするようにした方が一般受けはするでしょうね。派手な方がいいんです」

「まだ、持ち込むようなファイトしてますか」

「ええ、まだ少しね」

「雌ですからねぇ。だいぶ男性ホルモンの量は増やしてるんですが。あんまり増やすと成長が止まってしまうんですよ。それに、直ぐに死んでしまうんです」

「ははぁ、難しいですね」

「色の方はどうですか」

「良くなりましたねぇ。背中の色と体側、腹部のカラーバランスなんか名人芸ですよ。後は鰭と目ですね。兎の目みたいでしょ」

「分かってるんです。でもこれが難題なんです。どうしても色素が少ない部分の改良というのは難しくって」

「おい、君、よく釣り人の方の意見を聞いてちゃんとやらなきゃ。難しい難しいばかりじゃ話にならんだろ」

「はい、分かっております。できるだけ自然種に近いものと交配させて、近日中に解決するようにいたします」

「うん、頼むよ。もう日にちがないんだからな、オープンまでに」

「はい。分かりました」

「あのう、川のレイアウトはどうでしょうか。何か問題はありませんでしょうか」

「あるよな。な」

岩井が沢田の方を見る。沢田は少し考えてから答えた。

「ダム」

「えっ、ダムですか」

「ええ、あの壁が気になります。あれ、なくせないんですか」

「そうそう、あれ、嫌なんですよね。何だか息苦しくって。上流に向かって釣り上っていくのが渓流釣りの醍醐味な訳で、どこまでもどこまでも上っていきたくなる渓相って一番大事なことなんですよね」

「あの壁って、あそこで全てが終わりって感じがしますよね」

「ははぁ、それは全く気がつかないことでした。続いている感じですか」

「そう、どこまでもどこまでも未来永劫続いてる感じですよね」

「でないと、こう、何だかアウトドアスポーツの解放感っていうのがそがれるでしょ」

「なるほど、分かります。で、例えばですけど、滝なんかどうでしょう。例えば、横尾忠則さんなんかに壁画を描いてもらうとか」

「もっと自然な感じな方がいいんじゃないですか」

「なるほど、じゃ、両脇にでっかい岩を置いて、真ん中から実際に水を流すとかいうことですか」

「そうですね。ディズニーランドみたいになっちゃ困りますけど、その方がうんといいんじゃないですか。ダムで行き止まりになるよりも、滝で行き止まりになる方が渓流釣りらしくって」

「ははぁ、それは気がつきませんでしたなぁ。わしらはダムというと、それ自体で美しいもんだという頭がありますからな」

「組合長、それは古い発想でしょ。ここで一番違和感があるのはあのダムですよ」

「君、よく聞いて直ぐ改良するんだぞ」

「はい、分かりました」

「いやぁ、参考になりますワ、本当に。あっ、申し訳ありませんな、立ったままで。さぁ上に上がってお茶でも飲みましょう、さっきのお二人のビデオでも見ながら」