「うちが一緒におってもか?あんた、他の女のこと気になってんのんとちゃうか?」
「何をいうてるんや。僕、これええ話や思うで。パイロットショップのことは、初耳やけど、客商売いうのん一回やってみたかったしな」
「うちがやってるときは、何も興味ないみたいやったけどなー」
「そんなことないで、麻子の人脈の凄さいうのは、みんなあの店あってのことやろ。僕も違う人脈づくりしてみとうなったわ。それに、うちのワインの評判も知り たいしな」
「ふ〜ん、一郎ちゃんは何するにもワインのことばっかりなんやねー」
「そらそうや。そやけど、今は麻子のことが一番大事やで」
「ほんまかいな」
こうして、田中と麻子は安川専務の提案を受け入れ三年ぶりに日本の土、大阪の土を踏んだのだった。
懐かしさに浮かれていられたのもほんの十日ほどで田中は帝国ワイン社のパイロットショップ事業の概要を聞かされてあきれてしまった。
三年の間に日本経済は大きく後退し、大企業から順にリストラに名を借りた首切りや事業の縮小・廃止が 相次ぎ、以前のPKOのときのような予算が用意されていないだけでなく、計上された実施予算では到底 実現できない内容だったのだ。
店舗の改装費もなく、社員を使ったとしても、売り上げから捻出しなければならない。田中の人件費すら浮かすことが出来るかどうかすらも危ういものだった。しかも、ワインは、帝国ワイン社のワイン100%での営業が義務づけられているため、他店との競争力の点で初めから足枷がはめられているようなものだ。 田中は、日本に戻ってきたことを悔やみはしなかったものの、さすがにこの三年の間の様変わりに呆然とせざるをえなかった。
「パイロットショップの第一号店いうたら、頭も金もふんだんにつかうべきやないんですか!?」
安川に噛み付いてみても後の祭りだった。
「それなら誰でも出来ることじゃないか」
と切り返されれば黙るしかなかった。
田中の最初の仕事は、まず店を探すことから始まった。店といっても、権利金は馬鹿にならない。まともな店を探していたのではいつまでも開店することは出来ない。田中は一計を案じた。
帝国ワイン社が入居しているビルの地下に喫茶店があるのだが、この店は朝9時から夕方6時までしか営 業していない。これを、6時から11時まで借りることを思い付いたのである。しかも、期間を限定し、営業実績をみながら延長の交渉をしていこうと考えたのだ。
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