「あっ、ソプラノとアルトだー!」
ハーモニーを奏でる注文の声に反応したのは仁美ちゃんの方で、田中は、うわずった声で、
「う、うちは、ワインしかないんですわ」
と、これまた間抜けな返事を返す。
「ですから美味しいワインをくださいな」
長い髪の方が、念を押す口調で田中に注文する。
「ワインは食中酒ですから、食べ物とピッタリ合ったときに相乗効果が生まれます。これをマリアージュいうんですわ。ですから、赤、白、どちらかいうてくれはりましたら、それに合うたオードブルをお出ししよう思います」
「へーっ、面白そうね。じゃわたしは白」
「わたしは赤」
「最初は、白からというのはどうでしょう?スッとする思いますし、口を洗う意味からもまず白ワインというのがいいと思いますけど」
「ふ〜ん、そうなんだ。じゃー、1杯だけ白ワインにしようかしら」 「白ワインも赤ワインも、全部グラスで、500円、1000円、1500円、2000円、3000円とありますけど、どないいたしましょ?」
「お任せしますわ」
また、二人の声がハーモニーを奏でる。
「オードブルとマリアージュするワインを選んでくださいな」
髪の短い方が田中の目を覗き込みながらそう言った。 オードブルとワインのマリアージュと大きく出はしたが、そのとき田中の店にあったもので、白ワインと合うものと言えば、スモーク・サーモン、乾燥イチジク、生ハムのフルーツ添え、ポークのアップルソースくらいなもので、選択に時間も頭もつかう必要はなかった。
白ワインは500円のものを1杯ずつ出し、スモーク・サーモンと、生ハムのイチジク添えを出した。
「これでマリアージュっていうのが起こるわけ?」
髪の長い方が聞いてくる。
「ええ、食べ物を口に入れて噛む。そして同時にワインを飲む、そして一緒に噛んで飲み込むときに香りを鼻に抜くようにしてみてください」
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